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アイノカゼにのせて

令和の新元号で注目の万葉集。尾張で著名な歌に「桜田へ鶴(たづ)鳴き渡る年魚市潟(あゆちがた)潮干(しほひ)にけらし鶴鳴き渡る」がある。持統上皇の三河行幸に従っていた、高市連黒人の一首。

 

年魚市潟はどこか、いくつか説があるが、今の名古屋市南部の沿海部で、「あゆち」は愛知の県名の由来とされる。語源も諸説あり、民俗学者・柳田國男は「アユはアイノカゼも同様に、渡海の船を安らかに港入りさせ、くさぐさの珍かなる物を、渚に向かって吹き寄せる風」「アユチのチは東風をコチというチも同じに、めでたき物をもたらす風をアユチと言っていたのではないか」(『海上の道』)と説く。

 

海に囲まれ、四季の変化が豊かなこの国には、風に関する言葉、習わしが多い。風は時に牙をむき、昨年は列島に災厄をもたらした。

 

 歴史の里しだみ古墳群に、春風が吹きわたる季節も間近。1年前、ミュージアムがオープン、来場者は当初の年間見込み6万人が15万人に達しそうな勢いとか。ボランティアガイドの日々の活動が評価されている。一方で改善しなければならない課題もある。

 

 「考古学は地域に勇気を与える」は考古学者・森浩一の名言。「春日井シンポジウム」を長年、主宰し「東海学」はじめ、地域に根差し、考古学にとどまらず、文献史学、民俗学などを融合した、古代学・地域学を提唱した。地域の歴史に学び、新しい時代をつくる勇気、活力を得る。足元を見ることで世界を見る目を養う。森の熱い思いが伝わる。

 

「歴史の里マイスターの会」はミュージアムの誕生とともに、新たな出発をした。会を立ち上げ、運営に取り組んでこられた、先輩の方々に敬意を表し、「日日に新たなり」を心がけたい。

 

 

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コラム『歴里の風』はエッセイあり、論考あり、時には歴史を題材の俳句・短歌も。古に誘い、心豊かになるような話題をアイノカゼにのせて…。(岡村)