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私のおすすめ書籍~その3~ 推薦:歴史の里マイスターの会 Y.Oさん

『古事記及び日本書紀の研究―建国の事情と万世一系の思想』新書版 毎日ワンズ 津田左右吉著 2018

 

令和2年(2020)は『日本書紀』が成立して1300年。古代史学者・津田左右吉(岐阜県美濃加茂市出身、18731961年)は『古事記』と『日本書紀』に厳密な文献批判を展開し、大正8年『古事記及び日本書紀の新研究』を刊行(岩波書店)。その一節が今年、大学入試のセンター試験で日本史に出題されました。

本書にはその後、表題・内容を改訂した『古事記及び日本書紀の研究』と昭和21年、月刊誌『世界』(岩波書店)に掲載された論文『建国の事情と万世一系の思想』が収められています。

記紀の研究に関する論著の目次は「新羅、クマソ征討、東国・エミシの物語、崇神・垂仁二朝の物語、神武東遷の物語」など。「総論」の「記紀の由来、性質では帝紀(皇室系譜)と旧辞(物語)の成立時期について見解が示されています。この項は必読です。他は拾い読みでも。

帝紀と旧辞は記紀の主要な材料であり、津田は成立時期を6世紀半ばの欽明朝前後と推定しています。埼玉・稲荷山古墳の鉄剣銘文の発見により、成立は5世紀後半の雄略朝に繰り上がるとの説も出ていますが、津田説は現在でも高く評価されています。

『建国の事情と万世一系の思想』には、「天皇制の擁護」「思想の後退」などの批判が噴出。後に補訂、別の著作に収められましたが、津田の〝転向〟か、さまざまな議論があるようです。

戦前、記紀は天皇制に関わる「聖典」とされていた時代です。津田が早稲田大学教授だった昭和15年(1940)、『古事記及び日本書紀の研究』など4書が発禁処分になりました。出版法違反で起訴され、『古事記及び日本書紀の研究』のみ有罪判決(禁固3月、執行猶予2年)が下されます。「神武天皇より仲哀天皇に至る歴代天皇の存在に、疑惑を抱かせるおそれのある講説をし、皇室の尊厳を冒涜した」と指摘され、控訴したものの時効となり、有罪判決は無効になりました。

本書は原著の「付録」など一部を割愛してありますが、平易な表現に改め、ルビをつけ、編集部による注釈があり、読みやすくなっています。筆禍事件となった著作と戦後の論考が収録され、津田の思考を一冊でたどることができるのがこの本の特徴です。

 2012年発行の同名の『古事記及び日本書紀の研究―建国の事情と万世一系の思想』を基に紹介しましたが、現在、販売は新書版のみです。

 

歴里マイスターの会の読書会では『日本書紀』の現代語訳を読んでいます。ご参加をお待ちしています。