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茅の輪くぐり

 みずみずしい緑色の茅(ち)の輪をくぐると、かすかな香り。近所の神社で「茅の輪くぐり」のお参りをした。新型コロナウイルスの災厄から、身を守ってほしいとの願いから。

 

 茅の輪くぐりは「夏越の祓(なごしのはらえ)」の厄除け祈願の神事で、多くの神社では6月末から7月下旬にかけて。参拝した神社では毎年8月初め、夏祭りに合わせ催してきたが、今年はコロナ禍のため、参拝者が密集する祭りは中止し、茅の輪だけ設けたという。

 

 神事の由来とされるのが「蘇民将来(そみんしょうらい)」の説話。奈良時代に編さんされた『備後国風土記』の逸文によるとー。

 神が旅の途中、宿を借りようとしたら、裕福な弟は断り、兄の蘇民将来は貧しいにもかかわらず、丁寧にもてなした。数年後、神が再び訪れ、スサノオノミコトと名乗り「疫病が流行したら、茅の輪を腰につけなさい。疫病を免れるだろう」と言い残して立ち去った。

 

 三重県の伊勢神宮の門前町では、商家の玄関先に「蘇民将来子孫家門」のお札が目に付く。伊勢志摩地方の家々では毎年正月前、しめ縄のようなお札を新調し、一年間、掲げる。

 

 祇園祭で有名な京都の八坂神社はスサノオが祭神。祇園祭は平安京で流行した疫病退散を祈ったのが起源と言われる。平安京に遷都する前の都・長岡京跡の発掘調査で、蘇民将来の文字が記された小さな木簡が出土した。長岡京市埋文センターによると、お守りとして使われたようだ。

 

 古代、病魔を防ぐためには、ひたすら神に祈るしかなかった。茅の輪くぐりもそうした習わしの一つ。

 新型コロナウイルスは半年以上経つが、収束の兆しは見えない。医学が進んだ現代でも、ウイルスを封じ込めるのは難しいようだ。コロナとの戦いではなく、「ウィズ・コロナ」、ウイルスとの共生が説かれる。

 

 しかし、「共生」を唱える前にするのは的確な対策であろう。無為・無策とは言わないが、第2波が懸念される今、この国のリーダーはメッセージをきちんと伝えてほしい。         

 (岡村)