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私のおすすめ書籍~その8~ 推薦:歴史の里マイスターの会Y.O.さん

『戸籍が語る古代の家族』

(今津勝紀・吉川弘文館、2019年10月発行)

 

 複数の埋葬施設がある古墳のガイドでは、被葬者の親族関係を質問されることがあります。古墳時代と奈良時代の時間差はありますが、その疑問への参考になるのがこの本です。著者は古代史の研究者。戸籍を分析し古代社会・家族像を探っています。

 

 岐阜県中濃の富加町はわが国で最古の戸籍「半布里(はにゅうり)戸籍」にゆかりの地。大宝2年(702年)の戸籍が正倉院文書として伝えられています。

 複数埋葬については、人骨の分析に基づいた考古学の研究から、古墳時代の前期には配偶者は同じ墓に埋葬されず、後期になると男性と非血縁の女性が同葬(合葬)されるパターンが指摘されています。

 

 古代の婚姻では夫が妻のもとに通う「妻問(つまどい)婚」が一般的といわれます。しかし、著者は「古墳時代後期に同葬された非血縁の女性の別居は考えにくい。奈良時代でも男女同居が存在したはず」と述べ、生涯別居の妻問婚のイメージは改められる必要があるとの考えです。

 昨今、夫婦別姓が論議されています。古来、夫婦同姓が日本の伝統という指摘がありますが、著者は「それは全くの俗説」と退けます。古代の戸籍によると、父方の氏姓は子に継承されますが、妻は自らの出自集団の氏姓を変更しません。古代の夫婦は別姓です。

 「少子高齢化社会」と言われます。この本に引用されている人口統計によると、2017年、日本で65歳以上の高齢化率は27.7%。合計特殊出生率(一人の女性が一生に産む子供の数)は1.43人です。

 

 半布里戸籍では全く正反対。高齢化率は3%、合計特殊出生率は6.5人程度。古代には飢饉や疫病が頻発していたので、著者は「社会を維持するのは、かなりの頻度で出産を繰り返すことが必要だった」と述べ、多産多死の厳しい社会に目を向けています。  

    

            (歴史の里マイスターの会 Y.O)